スポーツ時の熱中症について

真夏じゃなくても熱中症になる!?
運動をする時に気をつけなければならないことは!?
そんな気になる疑問を、スポーツ時における
熱中症のスペシャリスト・渡部准教授に伺いました。

渡部 厚一 筑波大学体育系(スポーツ医学)准教授

01 スポーツ時の熱中症の特徴

熱中症は、環境などの条件が同じであれば、スポーツをしていない時よりも、している時の方がかかりやすくなります。
それは、体を動かすと体内でその分の熱が余分に発生するから。しかも熱中症は、条件さえ揃えば屋内・屋外を問わずおこります。
夏場のスポーツは特におこりやすいため、正しい知識に基づいた予防で、熱中症を防ぎましょう。

どんなときになりやすい?

梅雨明けなど暑くなりはじめの時期は要注意。体が暑さに慣れていないため熱中症のリスクが高まります。秋口でも、しばらく涼しい日が続いたあと、急激に気温が上がった日などは注意しましょう。

なりやすいスポーツは?

継続的な運動量の多いマラソンやサッカー、トライアスロンなどがなりやすいスポーツの代表格ですが、どんな競技でも熱中症の可能性はあります。海外の文献では「team and bat sports」としてクリケットなどでも発症例があります。高齢者になれば、ゴルフでの発症例も確認されています。さらに、野球、柔道、剣道など、防具や厚手の衣服を着用するスポーツ、減量を行うスポーツや水分補給のタイミングを得にくいスポーツでは注意しましょう。

POINT!

全体的に暑さが和らぐ秋は、熱中症が意識から外れやすいです。気温が急激に上がる秋口の夏日などは、心の準備も含めて注意しましょう。

学校の管理下における熱中症死亡事例の発生傾向 その1

02 熱中症を防ぐコツ

気温に注意する

熱中症に関して言えば、気温 28 度以上が警戒域となります。31度以上の環境下では、リスクが高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避けましょう。35度以上の環境下では、運動は原則中止です。
参考:(公財)日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2013)

無理をしない

「体調が悪いのに無理をした」「レギュラーになりたくて無理をした」「試合本番なので無理をした」。ケースは様々ですが、無理に運動をすると熱中症が重症化しやすくなります。熱中症を避けるためには、無理をしない・させないことが大切です。

服装に気をつける

なるべく薄着を心がけ、通気性の良いものを着用します。速乾性のウエアなどは、汗が乾くのが早く体温を奪いやすくなるため、おすすめです。防具をつけるスポーツでは、休憩中に防具や衣服を緩め、できるだけ熱を逃がしましょう。

休憩は頻繁に

夏場のスポーツ時には、15~20分に1回の休憩でも少なくありません。休憩は「上昇した体温を下げる」「水分を補給する」の2つの目的を意識しましょう。風通しの良い日陰で涼むだけでなく、冷たいタオルで汗を拭ったり、着替えたりすると、より体温を下げやすくなります。

汗を補うための水分補給

熱中症における水の使い方は2通りあります。そのひとつが飲み水。失われた汗を補うイメージで、0.1~0.2%の塩分を含んだものをなるべくこまめに飲みましょう。温度は5~15度程度の冷たすぎないものが吸収が良くおすすめです。

POINT!

適度な塩分・糖分が入っているスポーツドリンクなどは、浸透圧も高い上、疲労回復にも役立ちます。

水を使ったクールダウン

もうひとつの水の使い方が、体を冷やすための水。激しい運動のあと、冷水に浸かって体温を下げる「クールバス」のような水の使い方が、最近では認められてきています。そこまでできなくても、ホースなどを使って、顔や体を冷やすことでもOK。練習のあとは、火照った体を冷やし、体温を下げることで熱中症を回避しやすくなります。

03 コーチや保護者が知っておくと良い、子どものスポーツの注意点

種目によっても違いますが、コーチが子どもに対して「水を飲ませる」ことは比較的、普及はしてきているようです。
ですが、それだけでは不十分。大人と子どもの環境の差を知り、子どもの目線でケアを加えていくことが熱中症予防につながります。

大人と子どもで環境温度が違う?

子どもは大人よりも体が小さく地面に近いため、子どもが感じる暑さは大人よりも大きくなります。環境温度のギャップを常に意識し、大人と同じ感覚で子どもに運動をさせてしまわないように指導していく必要があります。

動きが鈍くなったら熱中症のサイン?

スポーツ中の子どもを観察していて「体の動きが鈍くなった」「集中力が無くなった」と感じたら、それは熱中症のサインかもしれません。子どもは熱中症の自覚が無く、そのまま運動を続けがち。少しでも異変を感じたら、すぐに子どもに働きかけましょう。

スポーツのルールが
熱中症のリスクを高める?

例えば野球。試合が長引けば、守備の選手は炎天下に長時間さらされ、その間、給水はできません。このようにルール自体が足かせとなり、熱中症のケアができないケースはよくあることです。子どもの試合などでは、通常のルールとは別に飲水ルールなどを設けて、対策をしていくと良いでしょう。

POINT!

大人が耐えられる環境でも、子どもは早く限界に達します。常に「熱中症の可能性がある」と捉えることが大切です。

学校の管理下における熱中症死亡事例の発生傾向 その2

筑波大学体育系(スポーツ医学)准教授
渡部 厚一

スポーツ科学と医学の架け橋的存在を目指して、大会救護やアンチ・ドーピング活動、帯同などスポーツ現場に視点をおいて活動するスポーツドクター。第16回アジア競技大会日本選手団本部(2010)、第25回夏期オリンピック大会水泳チーム(2012)など、国際大会帯同経験多数。